間伐

第3回 木質バイオマスは21世紀のエネルギー 1/5 

0.プロローグ 地球温暖化とエネルギー危機

なぜ、木質バイオマスか

バイオマスというと、植物性の、主にエネルギー源としての利用がすぐに思い浮かぶが、バイオマスという言葉そのものには、植物性とか、エネルギーとかの意味合いはない。生物由来の資源というほどのもので、動物の糞尿から、木綿や麻、植物性油などもすべてバイオマス。ここでは、木質バイオマスの、主にエネルギー源としての利用をメインに考えていきたい。

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間伐や除伐で出てくる林地残材。これをこのまま腐植させるか、エネルギーに変換するか?
木質バイオマスのエネルギーというと、すぐに思い浮かぶのが薪である。木をそのまま燃やせば、熱が発生する。木質ペレットは、規格化された薪ともいうべき燃料。取り扱いが格段に容易になっている。次に、木炭。これは木を蒸し焼きにすることで燃焼しやすくしたもの。もちろん、木質エネルギーの活用は、それだけに留まらない。ガス化して、それをエネルギーにして発電することも可能だし、メタノールなどの液体燃料も取り出せる。つまりは、木質バイオマスから取り出した液体燃料で自動車も走らせることができる。




循環型エネルギー

ところで、薪はなぜ燃えて熱を生み出してくれるのか? それは、木が育つときに浴びた太陽のエネルギーをその細胞一つ一つに蓄えているからだ。というと、ロマンチックすぎるだろうか? しかし、実際にそうなのだ。植物が育つときには空気中のCO2を吸収しながら光合成が行われる。それは、

CO2+H2O+太陽エネルギー→[CH2O]+O2

という式で表すことができる。これが燃焼するときには、

[CH2O]+O2→CO2+H2O+熱エネルギー

という式で表せる。重要なのは、上下の式が完全な循環を見せていること。バイオマスエネルギーがCO2を出さない、循環型のエネルギーであることがよくわかる。もちろん、燃えるときにCO2は出しているのだが、原材料の木や草が育つ間に吸収したCO2なので、トータルで見るとCO2排出ゼロと見なされるわけである。除伐された木や、枝打ちされた枝を山に残しておけば、自然に分解され、CO2を出しながら腐食していくのと同じこと。これは、直接燃焼させるかどうかに関わりなく、バイオマスエネルギー利用の全般に当てはまることである。もうひとつ、木質バイオマスがクリーンといわれるのは、燃やしても窒素酸化物や硫黄酸化物を極少量しか出さない。燃焼効率が低い、それにともなって輸送コストがかかるなどのデメリットはあるが、それを除けば理想のエネルギーということができる。

それぞれの木質バイオマス活用法に関しては、この後のレポートで詳しく紹介するが、ここではなぜ木質バイオマスに注目が集まるか、あるいは注目しなくてはならないのか、を考えてみたい。


待ったなしの地球温暖化

現在、人類にとって最大の関心事のひとつは地球の温暖化といっていいだろう。平均気温が何度上昇すれば、どの島がなくなるといった悠長な議論もあるが、島やビーチがなくなるほどの温暖化が進む前に、人類は未曾有の災厄に見舞われるはずだ。平均気温が目に見えるほど上昇すれば、異常気象が世界中を襲うことは明らかで、その前触れはこの10年で十分に目にしている。そして、そうした異常気象が続けば極端な貧困が地球の大部分を覆い、それは確実に国際紛争を引き起こす。これは歴史が教えるところ。

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四季の移ろいの中で咲く花。温暖化が進めば、こうした自然も失われていくのである。

温暖化を招いているのは、ご存じの通り大気中のCO2濃度の上昇である。CO2を増加させているのは、化石燃料を燃やしているから。化石燃料も、大元までさかのぼれば生物資源なのだが、これは人類が誕生するずっと前のCO2を1億年以上にもわたって固定化したもの。それを200年で放出すれば地球規模のCO2濃度の増加があるのは自明の理。

これ以上、化石燃料に頼ろうとするのは愚かなことである。もちろん、頼りたくても頼れないという事情がある。計算の仕方によってばらつきはあるものの、現在のままのペースで使い続ければ今世紀の中頃には石油も天然ガスも枯渇する。つまり、使い果たしてしまうのである。


原子力の限界

だから、原子力エネルギーが必要なのだ、とする説もあるが、これとてウラン235の埋蔵量は現在のレベルで使用し続けると50年前後で枯渇する。唯一可能性のある道は高速増殖炉の利用で、ウラン235をプルトニウムに変換するというもの。これならウラン235と比較して80〜90倍のエネルギー源になるといわれているが、技術的な問題からアメリカ、フランスが開発を断念。日本でも、その開発は実質的に無期限の中断状態といっていいだろう。将来画期的に安全性の高い高速増殖炉の技術が開発される可能性は、ほとんどないのではないか。「画期的に安全性の高い」という意味は、そのプラントの隣の敷地に住むことに誰もが何の抵抗も感じないという意味である。


石炭は?

石油に主役の座を奪われた石炭は、今のままの消費スピードでいけば22世紀中は持つと考えられるが、石油の代わりをさせようと思えば、やはり今世紀中にほとんどがなくなってしまう。もちろん、石炭は化石燃料だからCO2も放出するし、イオウなど有害物質も放出する。


数ある自然エネルギーの中で

つまり、21世紀以降は、化石燃料に頼らずにエネルギーを生み出さなくてはならないわけである。現在、化石燃料以外のエネルギー源といえばダムを使った従来からの水力発電の他は、太陽光、風力などのある程度実用化されている自然エネルギー、地熱、波力、潮力などを使った海洋エネルギー利用の発電などが研究、実験段階にある。そして、その中でも重要な位置を占めることが予想されているのが木質バイオマスエネルギーである。

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植林の時を待つ樹木の苗を育てる苗園。木質バイオマスエネルギーが放出するCO2は植物が生長する時に吸収するCO2。この循環の輪の中では、余計なCO2が発生することはない。

上記の中で、水力発電は、河の持つ自然の浄化作用、治水作用に注目が集まり、新しいダムは作りにくくなっており、既存のダムも土砂の流入により、数十年後には使用できなくなってしまう。つまりは、従来からの水力発電も先細りといわなくてはならない。自然エネルギーでは、現在のところどれが主流になるかはわからない。それぞれを併用しながらのエネルギー供給が自然な姿といえるだろう。

木質バイオマスエネルギーは、利用する植物を生育する段階で、後で燃焼する際に出るCO2をあらかじめ吸収している。つまりは、トータルで考えれば一切CO2を排出しないクリーンエネルギーなのである。発電などに利用するには専用のプラントを作らなくてはならないが、ある程度のプラントを用意すれば、規模を拡大するためにすることは森を増やしていくだけである。規模拡大のためには、発電ユニットを増設しなくてはならない太陽光や風力と比較して効率のいいエネルギー生産手段なのでは? と私自身は最も魅力を感じているものである。


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