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    後継世代を包括した超長期施業受託による集約化の取り組み −天草地域森林組合(熊本県天草市・上天草市・天草郡苓北町)−

    1 はじめに

    天草地域森林組合は、戦後造林地の利用間伐を計画的かつ安定的に実施するため、公有林や大中規模の私有林を主なターゲットに長期施業受託を拡大し、個々の森林施業計画を互いに連動させ、徐々に計画区域を集団的な施業のできる団地にとりまとめるという取り組みを展開している。そしてその際、契約期間を20年間という超長期に設定し、また、「包括承継報告書」という後継予定人を把握するための手続きを取り入れるというユニークな試みをすすめている。

    本稿では、当組合の取り組みを人工林資源の広域的な集約化のひとつと考え、林業経営担い手モデル事業の実施主体以外の取り組みとして報告に加えるものである。

    2. 集約化の経緯と実績
    2.1. 経緯

    当組合の管内人工林はヒノキが7割を占め、8〜9齢級をピークとし、保育から利用への転換期をむかえている。しかし、森林所有者はこの間の木材価格の低迷により経営意欲を喪失し、林業経営の主体たり得ない状態になっている。そこで、当組合では、2002年の広域合併を契機に利用間伐の推進に力を入れはじめ、これまで作業班の若返りや雇用改善、作業システムの機械化をすすめると同時に、長期施業受託を拡大し、提案型集約化施業の基盤となる森林経営情報を森林GISに集積することに努めてきた。

    くわえて2009年からは、冒頭のような独自の取り組みを展開している。20年という超長期の施業受託に取り組むようになったのは、2008年度に100年の森林づくり加速化推進事業(林野庁補助事業)を実施した際に、目標林型や路網配置を設定したうえで団地経営計画を短期(1〜5年)・中期(5〜15年)・長期(15〜20年以上)にわけて策定するという方法論に好感触を得たことによる。

    従来の5年では受託期間が短すぎて目標林型への誘導が困難なうえ、5年ごとに契約更新作業に煩わされていた。ならば、受託期間を思い切って20年までに延長してやることで、契約更新の煩雑さを解消するとともに、3回程度の間伐を想定する間に、林小班ごとにずれていた森林施業の時期を団地単位で同期し、目標林型へと誘導しようという発想である。また、「包括承継報告書」の工夫は、契約期間中に所有名義人が死亡し、所有権者が次の世代へ相続されるという事態が十分に想定されるので、契約の際に後継予定人を把握するために導入された。

    そして、実際にこの方式で所有者と交渉してみたところ、森林所有者やその後継予定人からも特に大きな抵抗もなく、おおむね好意的に受け入れられていることから、2009年からはこれを管内全体にひろげて展開している。現在では2010年6月に取得したSGEC森林認証とも積極的に連動させようとしているところである。

    2.2. 集約化面積・所有者数

    超長期施業受託は2009年度からはじまり、2010年11月までに1,486人、約6,000 haの一般私有林所有者との間で森林施業計画の策定を行った。また、これに公有林を加えると約9,000 haとなり、管内民有人工林面積の約4割に達する。

    2.3. 素材生産量の計画

    現在は長期施業受託を拡大している段階であり、素材生産に関する具体的な計画を策定するまでは至っていない。当面は現行の年間9,000m3程度の水準を維持しつつ、徐々に生産量を増加していく方針が考えられる。なお、当組合の作業班体制は22班、約120人という編成で、表Aのような実績を上げている。この表のとおり、新植・下刈が大きく落ち込むなか、間伐が1000〜1500 haの間で推移する間、素材生産量がほぼ倍増しており、利用間伐が急速に拡大している。

    表A 天草地域森林組合の過去5年の施業種別実績

    表A 天草地域森林組合の過去5年の施業種別実績
    3. 集約化の特徴
    3.1. 対象地域

    長期施業受託の拡大によって森林GISへ経営情報を集積している段階なので、対象地は、特定地域ではなく管内民有人工林全体となっている。

    天草地域の特色は、県内でもとりわけ地位が低く、林齢に対して蓄積が貧弱なため、林地によっては長伐期化ではなく短伐期での主伐・再造林について検討しなければならないことである。

    3.2. 森林現況調査と境界測量

    管内は地籍調査がほぼ完了しており、自治体に問い合わせれば所有者の名寄せも境界もすぐに把握できる状態になっている。ただ、その地籍情報は森林GISには載せられておらず、森林簿情報とは連動していない。そのため、長期施業受託の際には、「包括承継報告書」にくわえて、自治体から「名寄帳兼課税台帳」を申請入手し、契約書に添付することをしている。

    また、森林GISは主に森林簿のデータを載せて運用されており、林小班ごとの施業履歴や所有者名や森林施業計画の策定状況が様々な用途におうじて出力可能な状態になっている。路網についてはデータは入手済みであるが、まだ森林GISには載せられていない。

    このほか、実際に施業をする前には、主にプロット調査による森林現況の把握が実施されている。その際、森林土壌の地位がひくい天草では長伐期施業が困難な場合もあることから、「相対幹距比」や「樹冠長率」といった指標に取り入れ、間伐率や、長伐期にするか主伐短伐期にするかといった選択肢を提案していくことを考えている。それにともなって提案書では、その回だけの収支を呈示するのではなく、森林総合研究所が開発中の「熊本型間伐見積もりソフト(試用版)」を使用して、その後の林業経営全体の収支を呈示する様式を準備している。

    3.3. 合意形成手法

    天草地域では、所有者の提案型施業への認知度が低いことにくわえ、新たな取り組みとして「相対幹距比」や「樹冠長率」、あるいは「目標林型」といった、所有者には耳慣れない指標を導入しようとしている。そこで、平成22年度からは新たに間伐講習会を旧市町単位で開催し、当組合の提案型集約化施業の考えかたを現場で説明する場を設けている。

    間伐講習会は、間伐予定の現場で実際にプロット調査を実施し、そのデータから施業提案が行われるまでの仕組みを所有者が実習形式で体験できるように行われる。特に、説明資料を穴埋め式にして所有者に自ら記入してもらうことで、高齢者からも十分な理解が得られ、大きな効果を上げている。

    3.4. 長期施業受託

    目標林型に向けた団地経営のためには5年では短すぎるため、20年に計画期間を設定している。また、長期化にともなって予想される契約期間中の世代交替に対しては「包括継承報告書」で対応している点も大きな特色である。現在のところ、超長期に対する所有者からの抵抗感はみられず、順調に森林施業計画面積を伸ばしている。しかし、補助対象から外れる高齢級の林分に関しては、財源的な裏づけが十分に得られないため、まだ計画が策定されていない。

    なお、2010年からはSGEC森林認証の取得にともなって、受委託契約書のなかにも「SGEC森林認証の施業方針に従う」旨の趣旨が記載されるようになっている。

    3. 素材の生産と販売
    3.1. 素材生産

    当組合の保有する高性能林業機械は、スイングヤーダ1台(バケット容量0.25m3)、ハーベスタ1台(同0.25m3)、フォワーダ2台である。機械化作業班が1班編成されているが、その他はまだ林内作業車が主体であり、生産性は前者で3m3/人日、後者で1.5m3/人日程度と依然として低位である。また、路網については、年間6万8,000mもの開設実績があり、路網密度は利用間伐の現場で100m/haちかくになるが、機械化作業システムを前提とした線形配置や施工の技術水準は必ずしも高くない。

    3.2. 素材の販売

    当組合の生産した素材はすべて当組合の共販所に出荷されている。周辺の原木の主な消費地としては天草・松島に株式会社松島木材センターがあるが、スギ挽きの工場であるため、天草地域の人工林の7割を占めるヒノキの需要先とはならない。そのため、主要な流通経路は、当組合が経営する製材・丸棒加工工場で自ら挽くか、あるいは上益城の熊本製材小径木協業組合まで陸送するかに大別される。総じて島嶼のため、原木消費地とは隔離された環境になっているといえよう。

    他方、平成22年度末からは九州電力苓北発電所にて林地残材チップをもちいた木質バイオマス混焼発電がはじまり、年間最大1.5万tの受け入れを予定している。販売はこれからだが、今後の有力な販売先となる可能性をもっている。

    4. 成果と課題

    当組合は、通常の5年ではなく、20年という超長期の施業受託にすることで団地経営や長伐期施業あるいは主伐再造林)といったトータルな林業経営を所有者に対して示すことに取り組み、多くの所有者から同意を得ることに成功し、計画策定面積を急速に拡大している。

    この取り組みは、まだ森林GIS上に管内人工林に関する経営情報を集積する途中段階であり、まだ素材生産・販売に結びつく成果を上げていないが、林小班ごとに時期のずれていた森林施業を団地単位で同期させる取り組みが順調にすすめられており、団地経営を提案するための準備が次第に整いつつある。

    今後は、団地経営の成果を確実に上げるため、これまでの広域的な集約化をさらにすすめるとともに、素材生産部門の強化を図っていくことが必要である。天草広域森林組合の素材生産活動はまだ生産性が低く、補助なしで採算をとることができない。現状のままでは、せっかくの森林施業計画も、計画とは関係なく単年度で執行される補助事業の予算額に拘束されざるを得ない。それを回避するためにも、素材生産の低コスト化が急務であり、それを可能にする路網開設技術を不断に向上させていくことが求められる。また、素材生産の低コスト化が実現すれば、林地残材の搬出効率も自ずと改善されるため、バイオマス発電向けにC材を供給することも不可能ではなく、団地経営の採算性向上に寄与するプラス材料となるだろう。

    (大地俊介)