間伐

第3回 木質バイオマスは21世紀のエネルギー 5/5 

4.バイオマスからメタノールを取り出す

最後に、雑草からメタノールを取り出す技術を紹介しよう。これは、長崎総合科学大学工学部の坂井正康教授が中心になって研究していたもので、現在坂井教授の古巣である三菱重工業とタッグを組んで実験プラントを稼働させているものである。イネ科のスイートソルダムなどを乾燥、破砕してH2OとO2とともにガス化炉に送り込み、部分燃焼させ、H2、CO、CH4の原料ガスを抽出する。それらをコンバータを通し、加圧してから酸化銅などの触媒を通すことでメタノールを得ることができるというもの。もともと、簡単な技術ではないものを省略して書いているので、この説明で理屈をわかろうとしないでいただきたいのだが、ともかくバイオマスからメタノールを取り出すことできるのである。坂井教授は、メタノールの恒常的な生産を念頭に置いているので、早く育つイネ科の植物を使っているのだが、原料には破砕できるバイオマスなら何でも使うことができる。つまり、木粉や木の皮なども使える技術なのである。

メタノールが取り出せるメリットは、計り知れない。まず、このメタノールで自動車を走らせることができるのだ。さらに、良質な燃料として自由に輸送できる。メタノール車は、すでに各自動車メーカーから発売されており、ガソリンエンジン車からの移行が容易ということも大きなメリットである。

メタノールを燃焼させれば当然CO2は出てくるが、これは他のバイオマスのエネルギー利用と同じく、元の植物が吸収したCO2であり、ゼロエミッションであることに変わりない。

写真
三菱重工業長崎研究所に設置されたバイオマスガス化メタノール合成プロセス試験装置。

現在、三菱重工業長崎研究所で、240kg/日のバイオマスガス化メタノール合成プロセス試験装置が稼働しているが、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)委託事業として、中部電力や産業技術総合研究所、地球環境産業技術研究機構と共同で処理量1日当たり2t規模の試験プラントを設計・製作中という。

坂井教授は、かつてブラジルを訪れた時に、ブラジルがCO2排出ゼロの国と聞いて衝撃を受けたという。アマゾン流域の熱帯雨林のCO2吸収が国内のCO2の発生を上回っているからではない。電力はすべて水力発電でまかない、自動車の燃料はサトウキビを発酵、蒸留したエタノールで走っており、工場での燃料はバイオマスを使用している。自然の資源に恵まれたブラジルだが、石油は産出していない。海外から高価な石油を輸入しなくてもいいように、という国策である。

そして、糖分を含んだ材料しか使えないエタノールではなく、坂井教授が最も得意としている燃焼技術を使ってメタノールを作ることを考えたのだという。氏のすばらしいところは、メタノールを手に入れる技術だけでなく、それを使った持続可能社会についての明確なビジョンを持っていることだ。坂井教授の著書『バイオマスが拓く21世紀エネルギー 地球温暖化の元凶CO2排出はゼロにできる』(森北出版)は、1998年に書かれたものだが、単に技術解説の書というよりは、どうしたら人類が生き延びられるのか、という思想書として読むこともできる。

 

●木質バイオマスのことがよくわかる本

『木質バイオマス発電への期待』
熊崎実著
社団法人林業改良普及協会刊

通常の書店では購入できないが、バイオマスエネルギーを考えるために欠かせない本。木質バイオマスの利用法を網羅的にしかも、丁寧に解説されている。
表紙
『バイオマスが拓く21世紀エネルギー 地球温暖化の元凶CO2排出はゼロにできる』
坂井教授著
森北出版

坂井教授の発明になるバイオマスからメタノールを抽出する技術を中心に、21世紀のエネルギー問題を徹底的に解説。
表紙
『バイオマス産業社会 生物資源(バイオマス)利用の基礎知識』
原後雄太+泊みゆき著
築地書館

エネルギー利用だけでなく、あらゆるバイオマス利用に関しての解説が充実している。
表紙
『薪割り礼賛』
深澤光著
創森社

森に利用圧をかけて森を守る、という独自の理論に貫かれた薪利用のバイブル。
表紙

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