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雇用の安定と危険ゼロに向けて:福島県 有限会社平子商店

1.地域の概要

本社があるいわき市は、福島県の南東部に位置し、西は阿武隈高地、東は太平洋に臨んでいる。

地形は、西方の阿武隈高地(標高500〜700m)から東方へ緩やかに低くなり、平坦地を形成しており、夏井川や鮫川に代表される河川が市域を貫流し、太平洋に注いでいる。気候は、年間を通じて比較的温暖な太平洋岸型気候であり、県内でも積雪の少ない地域となっている。

本市の総面積は123,134haであり、森林面積は88,857haで総面積の72.2%を占めている。そのうち、国有林は30,606ha,民有林は58,251haであり、人工林率も59.7%と高く、豊かな森林資源を持つ県内でも有数の林業地帯となっているが、人工林の6割が7〜10齢級と育成途上にあり、また、林業労働力の減少・高齢化等の問題がある。県では、効率的な森林施業や森林の適正な管理経営に欠くことの出来ない林道の整備等を計画的に推進しているが、私有林では、零細・分散的な所有形態のため少量・分散・間断的な材の生産が主体となっており、今後、保育・間伐を適正に実施していくことが必要となっている。また、国有林では、保安林の整備・レクリエーションの森の整備、貴重な野生動植物が生息・生育する森林などを保護林に指定し、その保護・保全に努めるとともに、再生可能な資源である木材を循環的に利用するため、自然条件等を勘案しながら、収穫と植林を繰り返して、木材を安定的に供給するように努めている。

2.事業の内容

当社は、大正時代に平子(ひらこ)木材店として創業し、当初は主に木炭の生産販売が主体であった。木炭の消費がなくなると、常磐炭鉱に坑木を納めるとともに、酒類、雑貨を扱う小売業もはじめた。これが後の、(有)平子商店になるきっかけである。S51年常磐炭鉱が閉山になると三菱製紙にチップ原木を納めたが、三菱製紙白河工場の廃止に伴いチップ用の広葉樹原木の生産を少なくした。昭和63年有限会社平子商店設立とともに、素材生産協同組合勿来支部に入会し、スギの間伐作業に主力を置いたが、スギ、ヒノキの皆伐、銘木の販売、造林作業、松くい虫防除作業も併せておこなった。一時、スギ小径木でタルキ等を製材する簡易な工場も行ったが、2年ほどで廃工とし、その後いわき林業協同事業体(現磐城林業協同組合)に入るとともに、国有林の伐出作業、造林作業を中心に市、県、民間の素材生産作業、森林整備作業を行うようになり現在に至っている。

年度新植保育間伐素材生産
平成13年度4ha37ha20ha6157m3
平成16年度15ha100ha21ha7500m3
平成19年度30ha220ha49ha9598m3

3.雇用管理の改善と事業の合理化

近年、材価の低迷、現場作業員の高齢化が進むなか、事業量の安定的確保と労働力の確保が困難になることが予想された。そこで、林業技術後継者を育成するため、平成12年に3名、平成13年 2名、平成14年 2名、平成15年 2名(緑の雇用)、平成16年 1名(緑の雇用)、平成17年 2名(緑の雇用)、平成18年 2名(緑の雇用)と30歳以下の若年労働者を雇用してきた。

地元の人たちは、林業を、3K、5Kの仕事と考えているようで、募集をしても集らなかったが、平成12年に、福島県林業労働力確保支援センターの要請で東京ビックエッグに行き、面接をした若者が入社することとなり、借家を探し、また社宅も建てることとなった。その後数人の若者が入ったが、ベテランとの折り合いが悪く次々と辞めていった。おもいきって3年目くらいの若者たちだけのグループでの作業を試みたところ、1年間はまったくの赤字であったが、チームワークはたいへん良く辞める者もほとんどいなくなり、その後作業能率も徐々に上がり、さらに、臨時のベテラン作業員を付けながら技術の向上を図った。

5年ほど前からは、緑の雇用担い手対策事業、2年前からは高度化研修の制度に積極的に取り組み、現在10名の研修終了者のうち8名が残っている。給料は日給制であるが、社会保険、厚生年金、退職金制度、ボーナス、研修旅行がある。また、Iターンで山が好きな若い作業員のために、昨年は、スギ材でログハウスの事務所を建て、暖房に薪ストーブを設置したところたいへん好評である。

平成19年に導入したプロセッサー

平成19年に導入したプロセッサー

事業の合理化に関しては、10年ほど前に主に国有林の作業をしている19社で協同組合を設立し、森林管理署と長期協定システムを契約し事業量の安定確保を図るとともに各社との協業化を図った。また平成8年ごろより、いろいろな高性能林業機械を観てきて、平成9年にイワフジのCT500プロセッサー、平成10年にスイングヤーダを導入したが、グラップル付きのフォワーダは導入せず、先山と土場にグラップル付きバックホーを置いて運材車で搬出している。1台では新しいオペレーターが育たないので平成14年にCT500をもう1台導入した。その後、事業拡張により平成19年にGP45という大形のプロセッサーを導入したことで、機械の高性能化が図られ作業の軽減化、安全化に結びついた。また、研修会にも積極的に参加するよう努めており、17年度 には、基幹林業労働者研修(福島県林業労動力確保支援センター主催)に1名、18年度は、高性能林業機械オペレーター研修(イワフジ工業主催)に1名、その他林業架線作業主任者免許(2人取得)をはじめ、玉掛け技能講習、はい作業技能講習、林内作業車安全教育、チェンソー安全衛生教育、刈払機全衛生教育等は、ほぼ作業員全員が受講している。

4.危険ゼロを目指した安全管理

ミーティング風景

ミーティング風景

若い林業技術後継者が多いことから、『危険0により、事故0』を目指して、安全衛生教育の徹底を図っている。

毎週月曜日に全体安全会議を行い、林災防や所属の組合等から情報を得て最近の事故を分析し類似災害の防止を図っているほか、前の週にあったヒヤリハット、今週の各自の安全目標等を発表し、記録している。

さらに、現場が変わるごとのリスクアセスメントの実行や現場ごとに安全衛生推進者を配置し、毎朝のKYミーティング、安全衛生旗の掲揚、機械器具の点検、緊急連絡体制の確立等を徹底している。

また、所属する磐城林業協同組合において安全委員会を設置し、安全大会、安全パトロールも作業種毎に行っており、林災防、労働局、県等からの安全パンフレット等や安全作業に関する文書が確実に作業員に届くようにしている。

5.今後に向けた取り組み

現在は、国有林の事業が中心であるが、事業の安定化を図るためにさらに民間事業にも積極的に取り組みたい。今年は、森林施業プランナー育成研修に行き、全国との作業格差、民有林の現状、実際の提案型森林施業の方法、作業路の作設法等を勉強した。また、京都日吉町森林組合の湯浅氏等と知り合え、話し合えたことも勉強になった。伐出作業において、今後ますます作業路の作設が重要な意味を持つと考え、低コスト路網作成研修に当社の班長を参加させた。この研修内容をもとに独自の、地域に合った作業路作成を考えなければならないと考えている。

伐出作業の機械化をますます進めると共に、作業の軽度化・安全化はもとより、各機械の性能をよく分析し、また個人の技術の向上により、作業の低コスト化を推進して労賃の向上を図らなければならない。

森林整備事業においては、福島県における森林環境税の導入など、森林整備予算が増加し、除伐、保育間伐等の作業によるかかり木の処理等の危険な作業を行う機会も増したことから、危険ゼロの考えのもと、新しい作業方法を考えなければならない。

労働力の確保については、緑の雇用等事業を中心にさらに雇用管理の改革に努める。

数年前、わが社の東京出身で30代の若手作業員が、2泊3日で林業体験をさせ、田舎に泊め田舎料理を食べさせ林業に関する知識を深めてもらうという内容の森業・山業創出にかかる新規事業の企画を申し込んだ。しかし彼は、同じような研修会を実施している近くの森林ボランティア団体の研修会に参加したところ、新規事業の申込みは取り止めるといってきた。森林ボランティアの人たちの見識の高さに驚いたのである。一般の人たちに林業の大切さを理解してもらうためにも、林業マンとして森林ボランティアの人たちと交流は、重要なことと考えている。そのため若い人たちには、より高い林業技術、林業にかかる見識を身につけてもらいたいと考えている。

スギの木が伐採できるまで育つのに当地で約45年かかる。林業マンは職人であり一朝一夕にはなれない。縁あってわが会社に入った若い人たちが、自分の仕事に自信が持てる林業マンとなるように育てていきたい。